→発端の参考資料(2枚目画像)
「そもそも、ここはお前の安息の場じゃないんだ。食ったらとっとと帰れ」
何を言っても動かなかった彼が、そこで初めてピシャリと頬を叩かれでもしたように目を見開いて
固まった。
皿にビーフシチューはまだ残っていたが、そのままスプーンを置き、代金より多い札を乱暴に
取り出して釣り銭も受け取らずに椅子を立つ。
「あっ…、待って、坊や、ちょっと!」
アニーが追いかける。
しかし、なぜ近頃アニーはあの坊ちゃんにやけに肩入れするんだ?
レッドは振り向かず、右腕を自身の左肩の辺りに回して掌を広げた。来なくていい、という
ジェスチャーをアニーに向けているようだ。
アニーは玄関ドアの前でそれを見送った。
「どうしたんだ、アニー」
「…あの子、家ないのよ、親もいない」
「ほう。それで?」
「アナタは相変わらずなのね」
珍しい、と思った。
迂闊に他人に心を開くようなタイプではないと思っていたが、要は親のいないところに同族意識でも感じたのか?だがそもそも、人間の喋ることが常に本当かどうかなんてわからんだろうが。
「油断しすぎじゃないのか?」
「…」
「ブラッククロスをネタにした単なるスパイかもしれない、そんな発想は頭から抜け落ちたのか」
「ま、それもそうね、あんなガキンチョでもね」
肯定的な返事ではあるが、然程間に受けていないといった調子でアニーは伸びをした。
「さてと、行ってくるわ」
「坊ちゃんを追うのか?」
「何言ってんのよ、そこまでヒマじゃないでしょ。ジョーカーの偵察よ」
昼間は実際にやるべきことをしていたも、何か変な胸騒ぎがしたのも事実だった。大したことでは
なさそうだけれど、何かあるな。
すっかり日も暮れた後、イタメシ屋に戻る前に軽くフードとマントで変装してクーロンをぐるっと
ぶらついた。
靴屋、羽織物屋、フルーツ屋、居酒屋……
フルーツ屋と居酒屋の建物と建物の間にある細い路地から、呻き声が漏れていた。
おっさんのようであれば聞き流したところだけれど、わりに若者の声だ。
持っていたペンライトを点灯させ、路地に向けた。その小さい灯りですら不便しないほどにハッキリと、特徴的な逆毛が照らされた。
「……坊やでしょ?何やってるの」
返事はなかった。
「他には誰かいる?」
少し警戒しながら路地へ入っていく。
『ま、待った……来るなって』
疲れた声だ。近づくにつれて吐瀉物のような異臭がする。
女の勘は当たるねえ。
「具合が悪いの?」
『大丈夫、ほっといていい』
「隣の建物で飲んだでしょ?」
『……』
まさに図星のように黙りこくってしまった。
まったく、大人の真似さえすれば気が晴れるというものでもないでしょうに。
初めて会った日、未成年だから飲んでないなんて当然めかして言ってなかった?
「宿まで送るわ。立てる?」
『い、いや、まだ……うう頭痛い』
相当に調子が悪そうだ。
「一体何を飲んだの」
『ううーなんだっけ……そうだ、ウォッカって名前がカッコイイと思っ……ゴホッ』
思わずあたしの爆笑が狭い路地に響いた。
「バカじゃないの?下戸でしょ?そんなの下手したら死ぬよ、知らないのにひとりで試しちゃダメ」
彼は咳き込みだし、言ってるそばからまた吐いている。あーあ、しょうがないヤツね。
「ちょっと待ってなさい」
するりと路地を抜け出た。さっきのフルーツ屋の前を通り過ぎようとして、ふと思いついたように
尋ねる。
「ここではジュースは売ってないのかしら?」
「奥にあるよ、何がいい?」
フルーツ屋っぽくないボウズ頭の店主はメニューの紙を取り出した。
「じゃあ、ミックス2ついただくわ」
思ったより早々とドリンクをゲットすると、先程の路地に戻った。
「あげる。飲むでしょ?」
彼は無言でジュースを受け取り、ストローで半量近く飲んだ。
『ふうぅ……ありがと、助かる』
「あのね、あたし酒強いから、勉強するなら呼んでくれていいわ」
もう片方のジュースは必要なさそうなので、あたしが啜った。クーロン周辺での生活ではこんなの
不要だから、実は買ったことがなかった。マンゴーがメインらしい。薄暗い裏路地に似合わない
甘酸っぱさだ。何の悩みもなく、ヨークランドみたいなカンカンな場所で、パラソルの下で飲んだら美味いでしょうね。…妹はどうしてるかな。
『いや、懲りたよ、しばらくは絶対やだ』
甘いジュースのせいでセンチメンタルに傾きかかったけれど、それを聞いてまた笑わせられた。
『ジュースのお代、いくら?』
実際は60cだったが「90ね」と答えた。するとなぜか『高い』とぼやきながら120c出してきた。
「なにこれ?」
『感謝代だよ、少なくて悪いけど』
あたしは30cだけを彼の手に残して掠め取る。
『なんだよ……確かにビンボーだけど、オレ男なんだけどさ』
彼はその対応に落胆しているようだ。その顔の前にジュースの領収書をピラつかせる。
まったく、30cで男もクソもないでしょ。シュウザーの基地案内のときはヘラヘラしながら半額希望したくせに?
「実は60だから心配しなくていいわ。言い値で戴いただけ」
彼はポカーンと口を半開きにし、眠そうな目で30cを財布に戻した。壁伝いに立ち上がる。
『そろそろ出よう、送らなくていい』
「そう…、あのね」
あたしは飲み終わったジュースのカップをポイとそこらに投げ、腕を組み直した。
「ルーファスは誰に対してもああいうカンジだから、いちいち気にしたらキリないわよ」
『ああ、あれか…』
彼は額に片手を当て、ふらつき歩きながら続けた。
『今朝はルーファスじゃなくて、オレ自身に腹を立てたんだよ。気にするつもりはないから、
寄りたきゃまた寄るさ』
ふぅん。
ま、この調子じゃどっちみち、寝て起きたら忘れそうね。
路地を出た。かなり暗くなり、さっきよりも街灯が眩しく感じる。
――夜、クーロンで、狭くて暗い裏路地で、前科あり(※胸触り)の酔っぱらい男、か。
油断しすぎじゃないのか?というルーファスの台詞がふと過ぎり、それもそうねと
思ってしまうのだった。だが思ったとおりの人物像以外には何も出なかった。
無論、誰に何をされようがあたしは簡単に弾き返せるとも思っている。
「ひとりで行けるの?」
『ああ、ありがと』
ふらついていて不安だが、あのぐらいの距離なら平気か。いや、そういえば。
とりあえず一旦無視して階段のあたりに彼の姿が消えるのを見てから、そこまで行ってみた。
思った通りというのか、3段ほど降りたあたりで座り込んでいた。
「…やっぱ、手伝うわよ、介助費は別ね」
『ほっといていいってば……』
私が好きなのはホワイトホース、それ以外ならジンジャーハイボールです。誰も聞いてないです。
実際にウォッカ直なんてことはないだろうので何かで割ってあるカクテルでしょうけど、
そっちの銘柄は詳しくないですね(調べろ
さてCPスイッチを単にうっかり踏み抜いたと思っていましたが、とりあえずこのペアは
今後別の話の伏線になりそうなので。何に喰いついたかというと、アニーの弟です。
♦アニー「弟は問題児なんだよね、でもかわいい(意訳)」
♦裏真書「弟はブラッククロスの手先にする案をボツにしました」
なんだと?聞き捨てならん…なんかボツ案に良いものばかりが含まれてるよ。
「レッドが人前でやむを得ず変身する案」も公式ではボツになったんだよね。
良いものが埋もれていくね。ほじくりださなきゃね(やめてください)。
ブラッククロスを頭でっかちにウオオオと追ってるレッドの前に、
協力関係であるアニーの弟(手先にされている)が現れてほしいんですよね。
アニーは仕事で忙しくてブラッククロスにまさか弟が取り込まれている事態を知らない
ので、この2名を近い距離感で組ませておけば、まさに戦闘場面で大いに地雷を踏む形に
なってくれるはず。でもそれを解決させなきゃいけないのは中の人なので、
そんなことできるんかいなと思っている。
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