番外>架空キャラ>“アニーの弟がブラッククロスの手先”という裏真書ボツ案を採用


施設を抜け出すことは、これが初めてではなかった。

今までにも何度か、抜け出したいガキどもとつるんでは外に出て、こっそりシップに乗って
リージョンを巡った。
やってることは、食べ歩きだったり、カジノでこづかい失くしたり、モールでカジノ賃を盗んだり、逃げたり、野草を焼き払ったり。リージョンを巡るといってもなんとなくIRPOだけは絶対に
行かない、俺も含めてそういう奴ら。

今回も、お宝が出るという噂を聞きつけてシンロウの遺跡前にいた。
取り分をすべていただきたいことから、他のガキどもには内緒で単身訪れた。
入ったら出てこれないという話については、宝の取り分を減らしたくない輩が適当に流した噂、
つまり都市伝説だろうと踏んでいた。
入口からの見た目は本当に普通の遺跡で、何かオカルトなものに呪われそうな雰囲気は全く無い。
嘘かホントかわからない地図を片手に、俺はその中に身を滑らせた。
強そうなモンスターに見つからないよう、足音を潜めて慎重に歩いた…はずだった、が。

「客人よ、こちらで遊ぼうじゃないか」
「ふっ!?」

突然、顔全体を巨大な手のようなもので覆われていた。
なんの気配もなかったのに、こいつはどこにいたんだ?
かなり強い力だ。窒息する…!慌ててもがいたが、それも虚しく意識は途絶えた。



「…う」
……体が、重い…
ここ、どこだ?
薄暗く、湿った空気が流れている。
天井付近の壁に小さな模様のような窓があり、光はそこから射し込むものだけだった。
そういえば宝を探して遺跡に来たような記憶がある。
そのあと――、……!
「目覚めたか、客人よ。早速だが仕事をしてもらおう。そこにいるヤツを相手してみろ」
「は?」
俺の身の丈の2倍、いや3倍はありそうなほどの巨人…いや獣人か?それが話し掛けてきていた。
さっき襲ってきたのはこいつか?冗談じゃない…。
“そこにいるヤツ”とは、巨獣人とは比べ物にならないほどの雑魚モンスターなのだろうが、
俺はレーザーナイフと簡単な銃しか持っておらず、それも適当な奴を脅して金や食料を
巻き上げることに使っていただけだから、本格的な戦闘経験なんてない。
だがこんな状況では拒否も逃亡もできそうにない。姉の姿がふと脳裏をチラつくが、
一瞬瞼をギュっと閉じてそれを振り払う。
カタカタ震える手でナイフを構える。しかしそんな構えよりも早く、鳥型のモンスターは
空を切るように突進してきた。
「わ、わあっ」
俺はナイフを振るうことも防御の姿勢もできないまま、突進を受けて尻からひっくり返った。
「こりゃあ、全く駄目だな、Dだ」
巨獣人は独り言のように呟いてから、その鳥型モンスターに拳を落として潰した。
「…!」
IRPOには絶対行かないようなガキだと自覚している俺にさえ、何だか胸糞の悪い光景に見えた。
用が済んだという理由だけで、そこまであっさりと生命を潰せるものなのだろうか…。まぁ俺も
虫は殺すし草は焼き払ったが…
「しかし…貴様のその顔つき、どこかで見たことがあると思っていた。姉がいるだろう」
バクンと心臓が跳ね上がった。なぜその話を?
巨獣人はどこから出したのか、隠し撮りしたような画質の悪い写真を広げた。
姉――アニーが、廃屋を背景に、変な逆毛頭の男と共に映っている。
なんだこれ?緊張感で頭が痛くなる。
「先日、シュウザーが潰された。これはその時の現場にいた戦闘員からの情報だ。
 この女は小此木の小僧と組んでブラッククロス周辺をチョロチョロ嗅ぎまわっているらしくてな、
 邪魔なのだよ。何が言いたいかわかるか?」
わからない。わかるわけないだろ。
シュウザーとかブラッククロスとかそういう単語自体が俺には初耳なんだよ。今の姉貴は
一体どういう仕事やってるってんだ?
「そういう利用価値があるからひとまず、使えないオマエもそのままの肉体で生かしてやろう。
 姉と小僧をここまで連れ込め。ただしその前に奴らに本当のことを洩らせば……命はないと思え」
「…俺、姉貴とは一緒に暮らしていないんだよ、連絡もいつでも取れるわけじゃない」
「ふん、知ったことか。特に期限は儲けていないんだ、運が良かったと思ってもらいたいものだ」
「……」
来なきゃよかったな。来なきゃよかった。
入ったら出てこれないという噂は本当だったのだ、この巨獣人がいたからだ。
どうする?連れ込めと言われても。
――普段ですら、そんなに会えないのに。

……だが、特に何もしなくてもいいんじゃないか?
“施設を抜け出して長期的に帰ってこない”という話があったほうが、姉の耳には届くだろう。
だが施設抜けはこれまでに何度もやらかしているため、探してくれるかどうかは五分五分だ。
ブラッククロスが関わってるとかいう情報を混ぜることができればたぶん来るだろうが、
それを流したのが俺だとバレてはまずいのか…。
「それから…こいつを進呈しておこう。おかしなことは考えるなよ」
それは戦闘員の変装服だった。
両手で受け取ったとき、様々なことが終わったかのような変な気分になった。



数日後に、逆毛頭と姉はやはり遺跡の入り口に訪れた。
巨獣人の情報にはなかった、黒っぽいスーツでスレンダーな身なりの女性もいる。
俺は彼らを一瞥すると、できるだけ普段よりも声のトーンを落とし別人になるよう気をつけながら言った。
「女。貴様の身内を預かっている。返してほしくば遺跡深部まで来い」
女は2名居るが、この発言に心当たりがあるのはおそらくアニーひとりだろう。だがなぜかスーツの
女性も首を傾げる仕草をした。
『……こいつ、いつもの、キーっていう鳴き声はどうしたんだ?普通に喋ってもいいのか?』
逆毛が呟いたが、そんなこと俺は知らない。
とりあえずそれだけ言うと踵を返して走ろうとした。彼らは相当に戦闘慣れしている雰囲気だ。
誤解されたままでは本当に殺されかねない。
「待ちなさいよ、ちょっと!身内って、男の子!?」
姉が反応した。追いかけてくる。立ち止まりたくなる。本当は助けてほしいと言いたかった。
このまま全て明かして一緒に逃げたらどうなるだろう、やはりバレるのだろうか。
「立ち姿が似てたのよ。ねえあなた」
立ち止まるまでもなく鍛えられた脚力の姉に追いつかれ、右の肩を掴まれる。
「あなたが、ミストじゃないの?」
動揺し、足が縺れて無様に転んだ。焦っているので余計に息が上がっていた。
…どうして、会いたかった姉ちゃんに会うのがこんな形なんだろう

声を変え、服装が敵の姿でも、立ち姿が似ているというだけで俺の名前を呼んできたことに
衝撃を受けていた。

ここまで気づかれているなら今、明かすべきなのか、それとも巨獣人に従い続けるべきなのか、
俺はわからなくなり言葉が出なくなった。
「返事してよ。戦闘員なの?ぶっ潰すわよ」
姉が殺気を纏った。俺は慌て、縺れた足に鞭打って立ち上がり、必死に逃げた。
今度は追ってこない。俺は適当な部屋に隠れて息を整えることにした。
「うぅ……」
息を整えるはずだったのに、体が勝手に泣き出した。
巨獣人からも殺されると怯え、実の姉からも殺されると怯えて逃げ惑うばかりの自身は、
みっともなかった。



「…どう思う」
半眼のアニーがちらりとオレを振り返ってきた。
ちょっと怖えな、おい。
『人語を喋るヤツや、自ら逃げるヤツなんて今まで居なかったから、ちょっと…違うな』
オレは率直に言い、頭を掻いた。
『身内を預かってるって話は本当なのか?』
「そう、弟が数日前から居ないのよ。入ってる施設を抜け出したってね。よくそういうことを
 する子だけど、今回はなんだか失踪期間が長いから…」
アニーは半眼をやめて瞬きを繰り返した。
施設ってことは一緒に暮らしてはいないのか。そういえば以前、親がいないから長女として
グラディウスで働いてるみたいなこと言ってたっけ。
『悪い奇遇だな、ドールも弟がいなくなったんだろ。この遺跡に男児がみんな集められてんのかな?
 オレもやばいのか?』
「アンタをコレクションしたい人なんていないでしょ、いたら相当の狂人よね」
『ひでえこと言うなぁ!』
「ふふ、捕まるよりはいいんじゃない」
ドールまで笑ってツッコんできた、やれやれ。この人も弟がいなくなったわりには
ちょっと余裕あるんだな。人のこと言えないか。アニーが取り乱しやすいだけなのか?
『さっきのヤツ、確かめるか?それとも、直接深部を目指すか』
アニーはしばらく俯いて考えてから、顔を上げた。
「確かめさせて。もし弟なら、どういうつもりなのか聞き出さなきゃ。
 本物の戦闘員だったら、潰すだけのことだわ」
まあ戦闘員だとしても、さっきのはかなり怯えてて戦意はなさそうだったけどな…いいのかな。

さっき戦闘員が逃げて行った方角を手あたり次第、ドアを開けていく。
3枚目まではモンスターとの戦闘だけだったが、ちょうど4枚目のドアを開けたとき、そいつはいた。
部屋の中央にある巨大な植木の陰に蹲っていた。
…いや、叩いていいのか?こいつほんとにブラッククロスのヤツなのか?
「ミストでしょ、違うの?」
アニーが全く警戒のない様子で近づく。ドールも後ろで様子を見るだけだ。
相手が戦闘に長けていないことは正直、立ち振る舞いを見たらわかる。アニーよりも
慣れてないオレですらそれはわかる。一般人だとオーラに書いてあるようだ。
そんなヤツがどうして戦闘員の格好してるってさ、ハメられたんじゃないのか?
「…深部に行けと言ったのに、どうしてこっちに来たんだよ」



来たか…。
両者から逃げるのはみっともない。なら、どちらかに絞ろう。俺はさっきそう決めていた。
「どうしてこっちに来たんだよ」
言いながら、戦闘員スーツのマスク分部だけを外し、顔を晒す。声もいつもと同じ調子で喋った。
「ミスト…やっぱりあなたね。なんで?」
先程の殺気とは別の種類の怒りを姉は纏ったようだ。
「なんであんな悪党組織の下っ端になってるの?巻き込まれたの?あなたの意思なの?」
「それは…」

“本当のことを洩らしたら、命はないと思え―――”

ただのハッタリだとは思うも、万が一にも戦闘員のスーツに盗聴器が仕込まれていて内容を
聞かれていたりしたら、本当に俺も姉も殺されるのかもしれない。いや、俺はともかく、
この人たちは強いから大丈夫なんじゃないか。だが奇襲されたらどうかはわからない。
さっき、逃げるのはどちらかに絞ろうと決めたはずなのに、恐怖という爪が心臓を鷲掴んでいて、
また言葉が出なくなる。顎がカタカタ鳴った。

「あなたがそうしたくてやってるってんなら…あたし、あなたの姉であることをやめるわ」

イタズラ程度の悪事はともあれ、テロ活動するような本格的な悪人として生きる弟なら要らない。
おそらくそんな意図を、彼女は本気の眼で息巻いていた。
違う、遺跡に来たことは遊び半分だったけれど、そこから先は―――

「あ、姉貴だって…その組織、犯罪みたいなことしてんだろ。人のことばっか言えんのかよ」
本当のことを言うわけにもいかず無視もできない俺は、わけのわからないことを口走っていた。
黒スーツの女が、なぜか遠目にも一瞬ピクリと眉を上げるのが見えた。
「……本気なの?」
一呼吸おいて、パン!と小気味いい音が空間に響いた。左頬に平手打ちが飛んできていた。
辛いんだよ。姉をやめるなんて、言われたら。
俺が色々とトラブルを起こすとき、姉ちゃんに会いたいという気持ちも混じっていた
会えるときもあれば、会えないときもあった。
それは忙しいから仕方がないのはわかっていた。
俺の問題行動で負担を増やしてしまうことも、わかっていた。
だけどそこに折り合いをつけられるほど、大人になりきれてなかった。
唯一の身内だと思える人は、養子に出された妹を除けば、姉ちゃんひとりだ。
いなくなられたら嫌だ。心が離れたら嫌だ。
言ってしまおうか、誤解だって。でも、そしたらやばいかもしれないだろ。
何も言えないまま、また両目から涙が溢れる。
そうだ、本当に要らないかもしれない、こんな面倒くさい弟。黙っていれば俺と姉ちゃんは
助かるんだ。
嫌われることぐらい。
そんなことぐらい―――。
「なんで黙ってるのよ!!ねえ、どうなの!!」
姉は涙を浮かべながら俺の両肩を掴んで揺さぶってきた。
いいんだ、これで。姉ちゃん、ごめん。拭えない涙がただ重力に沿って落ちていく。

『アニー、待てよ。その子は普段も無口なのか?』
「そんなことはないと思う…」
『なら、何か口止めされてるかもしれないぞ。ブラッククロスの奴等は汚いだろうから』

我が意を得たのでつい、そちらの男のほうを見てしまう。
目が合った。相手は無言のまま頷きだけを返した。
それを見て、嗚咽が抑えきれなくなる。
姉も少し冷静になったようで、揺さぶられていた肩から手が外された。

『一緒に住んではいないみたいだけど、家族なんだろ?なら、今日ぐらい仲良く帰りなよ』



マスクを外した瞬間からして、顔色良くないなとオレは思った。
質問されて止まっている間も、黙っているというより、硬直している感じだった。
絶対これ、ハメられてるって。
確かに遺跡は薄暗いが、アニーらしからず普段の洞察力が抜け落ちているのか、矢継ぎ早に
責めるようなことを捲し立てていた。そんだけ、落ち着いてはいられないんだろうけれど…。
ミストという少年は顔を擦りながら話し出した。
「とりあえず…俺のことはいいから、奥のほうへ行って。今はそれしか言えないから」
『わかったよ。なあ、ここで待つか?一緒に来るか?』
「行くのは、足手まといだ…」
『戦わなくていい。逃げるのは巧そうだからな』
ちょっとだけ揶揄した。ここでひとりで待たせて何かがあってもイヤだし、
アニーの目の届く所に居てくれたほうがいいだろうというのが本音だ。
「ねえミスト、さっきはごめん。ついて来てくれる?」
姉にもそう言われ、少年は小さく頷いた。





一旦ここまでで。KOです私が。あんまり赤とアニーの地雷になってない。残念。
この後、ベルヴァを正面から倒すか・捕まるかがゲーム上では分岐している上、
私はぶっ倒したシナリオしか見てないので、この後の戦闘シーンをまだどうしようか
考えられてないです。というよりあんまり穴埋め妄想には必要ないような気もする。
シュウザーのときは父上が絡んでるから特別に思い入れがあったけど。

あと弟さんの名前を勝手に決めました。すみません。「サガフロのキャラの名前って結構
カンタンそうに付いてる」という主軸をそのまま使おうとしたわけですが、
最初はlossっぽい単語で行こうかな、と思うもロスターとダブってしまうので却下し、
じゃあmissっぽい単語で行こうと思ったけど露骨すぎたので、霧になりました。
ゲーム上にはたぶん存在してないし掴みどころは無いので、これでいいやという感じです。
妹のほうには正しい名前があるのかしら。


赤い狐と狸は何方

何年遅れなのかサガフロの二次創作サイト。 レッド推しだけど中の人のせいで色々おかしい CP…アニー攻?(19/05/31現在)