「で、なんでブラッククロスの情報が欲しいの?」
『それは……』
話そうとしたとき、家が燃えていく様子がカッと脳裏に蘇った。
振り下ろされた爪が躰に喰い込む。それに横目もくれずに、
いくらも反撃にならない拳をオレは揮っていた。
家族を守れず、自分も守れなかった弱い男。
『う…』
急に目が回ってきた。オレは慌ててテーブルの上のおしぼりを引き寄せてそこに顔を突っ伏した。
「坊や?どうしたの」
気持ち悪い……空のグラスを片手で持ち上げて水をくれというサインをした。
「ルーファス、水ちょうだい」
アニーの洞察力はそのサインを正しく受け取ったようだ。
差し出された水をゴクゴク飲み干して、溜息をついた。
なんだよ、今はあのときと違う!
いちいちこんなのに、負けてられるかよ。
アニーは腕を組み、からかうように言った。
「アンタさては、外で呑んできたの?」
彼は心底心外だという目つきをした。
『違う……それにオレ、未成年だし』
「この街じゃ年齢制限守って呑むような宜しい若者なんていないわよ」
ふざけたようにそこまで喋ってから、おや?と思った。
おしぼりから顔を上げた少年の様子は眼光炯々、殺気に満ちている。
…そんなに悪いこと言ったかな?
『とにかく、気にしなくていいや。話の続きをしよう。えーと、なんだっけ』
顔つきと言葉の幼さが釣り合っていないのが妙な不安を煽るけれど大丈夫なのかな。
「シュウザーを追ってる理由」
『そう。家族の、仇だ。……父さんも母さんも妹も、みんな、奴らに――』
また少し苦しくなって言葉尻が切れる。
細かい事は思い出すな。目の前に集中しろ。今は小此木じゃない、アルカイザーだ。
腿の上で両拳を固く握りしめた。
しかし思い出すなと言い聞かせる程、平穏に暮らしていた頃の彼らの姿が頭を巡りだす。
……もういないのか。どこにも?
母さん、藍子、父さん―――…。
ちくしょう…!!ドン、とテーブルに拳を落として俯いた。
だけど早く話を進めたいんだ、さっきから、じたばたしてる場合じゃない。
ふと前髪のあたりに、くしゃっと乱暴に5本の指が突っ込まれた。彼女が少しテーブルに
身を乗り出すようにして手を伸ばしていた。
「…そ、辛かったね。そういうのってガマンならないな。でも、これはビジネスだからね」
きつく締めていたバルブがボン、と弾けて戻るような体感にオレは慌てた。眼球が熱くなり、
鼻の奥が痛い。ブン、と頭を降ってその手を振り払う。ビジネスだっていうなら、
こういうのもやめろよ。腕で乱暴に顔を拭ってから向かいの彼女を睨んだ。
『わかってるよ、情報料だろ』
「…そんなに怖い顔しないでよ、あたしは仇じゃないでしょ」
困惑を表され、オレは少し眉を上げた。
『ごめん。…で、何をどこまで知ってるのか簡単に教えてほしいんだけどさ。
でないと金額を全然判断できない』
「…そうね、ヤツの基地の場所を知ってる。そこまで案内できるわ。大きいネタでしょ?」
『…ホントなのか!?』
思わず目を見開いた。いきなり、基地の場所だって?話が早すぎやしないか?
「ホントかウソかは実際に行って確かめたら?現地払いでいいから。このぐらいでどう?」
だが彼女が示した金額は高かった。今はキグナスを降りてしまい一定収入がなく、
しかもそんな基地に乗り込むなら装備も揃えなきゃならないだろう。
『うーん、このへん』半笑いで半額を示す。
「それはちょっとバカにしすぎでしょ?…7割でどう?」
『じゃあ、それで頼むよ』
基地に乗り込めるのはオレにとってはデカい話なので、7割でも譲歩してくれたほうだ。
そう思うが、そのへんの恩義について敢えて反応しないことにした。
ビジネスだって言ったもんな?
「今回は料理の奢りもあるから特別だけど、次回からはちゃんとしてよね」
『わかったよ、ごめん』
やっぱ負けた。
実際のところブレているのは少年ではなく私ですけどね。
この時期にちょうど、不眠が続いて精神病判定を喰らってしまいました(鬱じゃないよ)
で、薬を飲み始めたんですが、前半は素の状態で書き、後半を投薬後に書くという人生初の
体験をしたわけですが、意味わかんないです。前半を嫌いになってしまった。
かなり修正して、原型を伴ってない。それでも後半(赤視点)は少し好きかなぁ。
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