ヒューズ、アニー、コットンの前でアルカイザーとしてアラクーネを倒した後、
オレは階下まで降りて変身を解いた。
その後、いかにも困惑している表情を作って屋上へ戻る。
『あ、遅れちまった。……どうなったんだ?』
「あ!いたいた…アンタ一体どこいってたの?心配したじゃない」
アニーに右肩をどつかれ、後ろによろめく。それを次には逆方向に抱き寄せられた。
『え!』
どつかれるのは予想の範囲内だが、抱き寄せられるのはかなりの不意打ちで
オレは慌てた。柔らかいものが上半身に当たっている。
後ろで見ていたヒューズが口笛を鳴らした。やめろバカおっさん!
『ちょ、待った離せ…どうしたんだよ!』
ついドキドキして顔が赤いのがバレるのではと気が気じゃない。
「だって…家族だけじゃなくてアンタまで捕まったりしてたら、あんまりでしょ」
アニーはやや静かな声で言った。
どうやら本心から心配してくれてたようだ。
シュウザー戦の後の父の話を聞かせたので、余計に気にしているのかもしれない。
『その…さっきの停電のときに方向感覚失っちゃって、迷ってただけなんだ』
「まったく、いざってときにドジよね」
アニーが離れ、オレは心底ホッとした。
「ねえあの後、アルカイザーっていう変な格好の人が当たり前のように前線にいたけど、
アンタ知ってる?」
『いや……わからないな』
まださっきの柔らかい感触にドキマギして落ち着かないので、代わりにコットンを抱きしめて
照れ顔を隠した。これで上書きしよう。
「キュウ」
アニーは不愉快そうに眉を顰めた。
「あたし、そういう愛珍動物キライなのよね…媚売ってるみたいで」
『愛珍動物じゃないだろ、ちゃんとした戦力だ。媚どころか、あるがままでいるだけじゃないか?』
「あるがまま…ね」
アニーは小さく溜息をついた。
「だからどっちにしろ、キライなんだわ」
そう呟くと、踵を返して屋上から降りていく。
なんだかよくわからないな。今日のアニーは行動の理由や背景がさっぱり掴めない。
「女ってやつか」
どこから湧いたのか、ヒューズがいつのまにか横に立ち、煙草を蒸しながら可笑しそうに言った。
「オマエが動物ばっか抱くからじゃん?ちゃんと応えてやらねーと」
『何言ってんだよ、さっきから』
オレはむくれた。そんなわけないだろ。
あるがままに嫉妬するのは…たぶん生きてきた環境のこととかだ。アニーは若いうちから
色んな無理をしなきゃいけなかったから、そのことを言ってるんだろう。
そのくせさっき、心配したという理由だけで抱き寄せられたのは未だに意味がわからないが。
きっと気まぐれだろう。
「そこそこいい女じゃねーか、あまりチンタラしてると俺がいただいちまうぞ?」
『そりゃどうぞご自由に…返り討ちに遭うだろうけどな』
「マジでなんもないの?」
冷ややかに返しすぎたか、素っ頓狂な声を上げている。知るか。そもそもブラッククロスの
情報を買うのにビジネスだと言ってきたのはアニーのほうだ。
今はボランティアと言ってるが、あとで払えと言われたら払うし、それで同伴終了しても
それはそれだろう。違うのか?
しかしふっと、クーロンで酔っ払った日にジュースを買ってきてくれたことを思い出した。
あのとき、爆笑している様子を初めて見たんだ。
こんなに笑うんだ。そこまでおかしかったかなぁ。余ったジュースを美味そうに飲んでいた。
そこだけを見たら、グラディウスとして闘う人員ではなく、普通の人間のようだった。
それはあの裏通りの細道のように、僅かな隙間だった。
最近はどっちの顔で来ているんだろうな。
あまり見ていなかったというのが正直なところだった。
「キュ、ウ」
コットンが腕の中でもぞもぞと蠢いた。
「そろそろ暑いってさ」
ヒューズが翻訳したので、オレはコットンを離した。
『…なあ、最初にキャンベルに会った日、ぶん殴ってきたじゃん』
「俺のことか?ま、あれじゃ話の邪魔だったからな。
そーだな、一般市民をいらぬ危険から守ってやろうというつもりもあったぞ?」
『後半はウソだな』
「そ、ウソだ。なんだ、真に受けねーのか」
どんだけ茶化すんだよ。ウザいなこのおっさん。
『でさ、殴ったからって顔も見たくないほど嫌ったわけではなさそうだな』
「そりゃ、ガキがしゃしゃり出るなんてよくあるパターンだからな、いちいち気にしてたら
何も務まらん」
『殴ったからって嫌いだとは限らない。じゃあさ、抱きしめたからって好きだとは限らない』
ヒューズはとうとう本気で吹き出した。まだ長さの残る煙草が落ちてしまった。
「オマエ真面目くさって何を考えてやがんだ。んなもん理屈で解明しようとしたってムダだぞ、
カワイコちゃんはカワイイ、イケメンはイケメン」
『じゃあオレはイケメンってことか?そりゃ嬉しいね』
「そりゃーちょっと違うんじゃねえの?髪をなんとかしろよ」
『だから、話が破綻してんだろ』
ヒューズは2本目の煙草を取り出すのも面倒くさそうなほど笑っている。なんなんだよ。
「おーおー坊ちゃん。本人に聞いてみたらいいじゃねえか。それが一番早いわな。
心配しなさんな、横取りするってのは冗談だから、ごゆっくりどうぞ?」
『……』
なんか、変な話になっちまった。もういいや、今日はさっさと寝るぞ。
いやうんさっさと寝ましょうね。
だめだ、やっぱり変なCPになってしまった、本気でそっちに進もうとしている、何で?
あくまで「弟のネタ」をやるためにうまいこと組み合ったと思っていたのに
やたら入れ込んでしまってるじゃん、ダメです。ダメ。
いやでも、アニーの背景も結構ズルくない?男女問わず背負い物があるタイプが好きなのかなぁ。
そしてすまんけど、私にも女心はわからないのですよ。
ところでヒューズはコットン語を翻訳できることにしたけど、実際正しいのかは不明。
しかし、アニーは レッド+4歳 ヒューズ-4歳
ほう。どっちもくっつこうと思えばくっつけるが、わざわざ火花は散らない)
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